農学全般

栽培学汎論


害虫防除

化学的防除

・殺虫剤などの農薬を使用した防除法を化学的防除という。化学的防除は最も一般的な防除法であるが、環境保全の面から様々な問題が指摘されている。
・特定の害虫に同じ薬剤を継続して使用すると当初は効果があった薬剤が効かなくなることがある。このような性質を薬剤抵抗性と呼ぶ。その原因は薬剤による防除によって薬剤に弱い個体が死に、強い個体が生き残るために薬剤抵抗性をもつようになると考えられている。
ある薬剤の抵抗性系統が他の薬剤にも抵抗性を示す性質交差抵抗性という。例えばイネ害虫であるツマグロヨコバイのカーバメートに対する抵抗性はほぼすべての市販カーバメートに交差抵抗性を示す。他にも様々な薬剤の使用によってそれぞれの薬剤に対して同時に抵抗性を示すようになることがあるが、この性質は複合抵抗性と呼ばれる。

生物的防除

害虫の生理生態を利用した防除法を生物的防除という。生物的防除は害虫防除の理想的な体系と考えられている総合防除を具体化するに当たって重要な役割を占めることが期待されているが、実用化までには多くの問題を抱えている
[抵抗性品種の利用]
・抵抗性品種は抵抗性を示す機構として、産卵や摂食に対する選好性と、発育や生存率に直接影響を及ぼす抗生作用をもつ。この選好性と抗生作用の原因となる作物の化学的・物理的性質は遺伝的要因によって決定される
[フェロモンの利用]
・フェロモンとは動物体内で生産されて体外に分泌・放出され、同種の他個体に作用して特有な反応を引き起こす生物活性物質である。いくつかの作物害虫では性フェロモンが合成されており、害虫の発生予察に利用されている
・フェロモンには他個体に特定の行動を引き起こさせる解発フェロモンと生理作用にかかわる誘導フェロモンがある。前者には性フェロモン集合フェロモン警報フェロモンなど、後者には階級分化フェロモンなどがある。アリ、ミツバチなどの社会性昆虫およびアブラムシなどの集団生活性昆虫が外敵の攻撃を受けると、集団内の直接攻撃された一部の個体は警報フェロモンを分泌して集団の他個体に危険を知らせる。社会性昆虫は巣を出た際、帰巣または発見した食物の場所を他個体に知らせ導くため、その道に標識を付けていく。これが道しるべフェロモンと呼ばれる。個体間の相互依存関係が社会性昆虫ほど強くないものの、集団生活を行うカメムシ・ドクガ幼虫・ゴキブリなどでは集団の形成に集合フェロモンが作用している。ミツバチの女王から分泌される女王物質は働きバチの卵巣発育を抑制し、この女王物質は働きバチを介して幼虫にも伝えられ、結果として働きバチが次々と誕生する。巣から女王を除去すると働きバチも産卵を開始する。この他には昆虫の配偶行動に関係し、通常はメスがオスに対する求愛行動として分泌する性フェロモンスジコナマダラメイガの雌成虫が幼虫の成育密度に対応して分泌する密度調節フェロモンなどがある。
・フェロモンによる捕殺は性フェロモンの応用で、メスが分泌する性フェロモンをトラップに仕掛けてオスを誘引し捕殺することで雌雄のバランスを偏向させ発生を抑制する方法である。しかしながら合成性フェロモンの利用による害虫防除法としては確立に至っていない
[不妊虫の放飼法]
生殖機能を人為的になくさせた不妊虫の放育により次世代の増殖を抑える方法
ex. ウリミバエの不妊雄の放育
[天敵生物の利用]
・天敵を利用した防除法としては病原微生物を利用した方法の他に、捕食性および寄生性天敵を利用した方法があり、特に海外からの侵入害虫に対して効果が高い
・天敵を利用する害虫防除には大きく以下の2つに分けられる。その1つは、天敵を耕地環境内に導入して永続的に定着させることで害虫の密度を下げ、これを潜在化させる方法である。もう1つは、天敵を人工増殖し害虫の発生状況に合わせて放育する方法である。後者の方法は特に閉鎖的な環境条件下である施設栽培において有効とされている。
捕食性昆虫の放飼法
作物に害を与える昆虫を捕食する昆虫を利用する方法。アメリカから導入された捕食性ダニであるチリカブリダニはハダニを捕食する能力に優れており、現在有効に活用されている
ex. イチゴ・スイカなどの害虫であるハダニに対する外来の捕食性ダニであるチリカブリダニ
寄生蜂の放飼法
幼虫期には他の昆虫に寄生し、成虫になると自由生活者になる特殊な生活様式をもつ寄生蜂を利用して害虫を駆除する方法
ex. 耕地栽培 カンキツの害虫であるルビーロウカイガラムシに対するコガネバチおよびルビーアカヤドリコバチ、カンキツの害虫であるヤノネカイガラムシに対するヤノネツヤコバチ、クリの害虫であるクリタマバチに対するチュウゴクオナガコバチ(ただし導入段階)
   施設栽培 オンシツコナジラミに対する寄生蜂(名前不明)
[BT剤の利用]
・Bacillus thuringiensisの産出する毒素を有効成分とした製剤。例えばマメコガネの幼虫に寄生したbacillus thruingiensisは乳化病を引き起こしマメコガネを死に至らしめる。鱗翅目害虫に対して特異的な効果がある。

経済的被害水準

経済的被害水準(economic injuiury level:E.I.L)とはこれ以上昆虫の個体数の密度が高いと薬剤散布でもしない限り、目に見える経済的損失が生じる密度を指す。図は北九州におけるイネ加害昆虫4種の年次変動を示したものである。図中の2つの破線はそれぞれAとCのE.I.Lを表している。この図には以下の3つの型の個体群変動が示されている。

・1つめのタイプは大部分の年は密度がごく低いため薬剤散布の必要がないが、個体数の変動率が極めて大きいので大発生の年には防除をしないと大きな被害を与える。このような害虫にはトビイロウンカ(A)がある。
・2つめのタイプは個体数の変動幅はそれほど大きくないが平均して密度が高く常に防除の必要がある。このような害虫にはニカメイガ(C)がある。ニカメイガは1匹で複数のイネの茎を食害するので、E.I.Lはトビイロウンカに比べ低い値になっている。
・3つめのタイプはイネを食草にしているが常に密度が低いため防除の必要がない。このような害虫にはヒメジャノメ(D)がある。ヒメジャノメは水田で大発生することはまずない
・Bはツマグロヨコバイの変動を示したものであるが、ツマグロヨコバイは西日本で普通大発生せず、イネが枯れるほどの密度になることはない。この意味でこの害虫の密度はヒメジャノメと同様、常にE.I.L以下にある。
・以上のことから防除が必要な害虫には2通りあって、1つは個体変動の幅が大きく時々大発生するもので、もう1つは個体変動の幅が小さいが常に高密度に保たれているものである。




  


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