農学全般

栽培学汎論

管理

放牧管理

・放牧初期には放牧による飼育環境の急激な変化が体力低減の原因となるため、予備放牧を行うことが必要である。入牧牛は通常若令牛(5〜10ヶ月齢)が大半であるので、入牧時には放牧時間を徐々に長くしていくことで放牧に馴致させなければならない。また予備放牧区は管理棟の近くに設けて十分に監視する
・放牧牛は舎飼いとは異なり、環境の影響を直接受け、牧草や野草をみずから選択して採食しなければならない。群飼のため病牛が混在したときなど病気が広がりやすく、個体管理が難しいために病牛の発見が遅れがちになる。また,衛生害虫の影響も大きい。放牧環境では序列の低い牛抵抗力の弱い牛がストレスを受けやすく、発育の停滞をはじめ発病、種々の事故などの誘因となる。
・粗放放牧は一般に厳しい条件下で行われるため放牧牛は罹病しやすく、しかも急激に重症に陥る。このため放牧牛管理のために定期的な健康検査が実施される。健康検査では体重測定・臨床診断・採血が行われ、血液は赤血球容積測定・各種病原体抗体検査等に供される。放牧牛の健康検査を実施するには多くの労力と時間ならびに専門技術を要するため、公的機関である家畜保健衛生所の獣医師等の助力を受けている。また発症牛の治療についても指導を受けることが多い。
・放牧中の病気で最も被害の大きなものは小型ピロプラズマ症である。本症は牛体に付着して吸血するダニ、特にフタトゲチマダニ病原の小型ピロプラズマ原虫侵入の媒介となっている。厳しい環境下では罹病牛は急速に貧血に陥り、他の病気にも同時に感染・発症することが多い。幼若牛では致死率が高いため,入念な治療を必要とする。北海道ではダニの越冬が少ないため本症の発症が少ないが、東北以南ではダニと原虫の根絶が困難であるため常に最も被害の大きな病気となっている。
退牧牛は放牧の間に細菌やウイルスの感染によって抗体を作り、それらの病原に対する抵抗性を獲得しているが、牛舎内の飼育牛には耐性がないため注意が必要である。したがって放牧牛の退牧時には十分な衛生検査を行い、放牧地から病原体や寄生害虫を畜舎内に持ち込まないように相応の処置を行うことが望ましい。また退牧によって摂取飼料が著しく変化するが、放牧地では野草・牧草の摂取が主体であったことから、濃厚飼料や製造粕類の給与量が急に多くならないように注意すべきである。
・繁殖期に到来した雌牛は通常人工授精あるいは人工交配により受胎させる。人工授精では繁殖適期牛群の毎日の注意深い観察が重要である。発情牛はチンボールを装着するなどして乗駕行動等から識別され、牧区の片隅の授精場所に誘導される。人工交配では種雄牛同士の抗争による消耗を避けるために1頭の種雄牛を1つの繁殖適期雌牛群に入れる

家畜の繁殖特性

[一般的な繁殖特性]
野生動物の大半は季節繁殖性を持っている。ただし、野生動物であっても季節変動の小さい熱帯や亜熱帯地域では周年繁殖行動をとるものもある(ex. ヒツジのバルバドスブラックベリー種)。繁殖に季節性のある理由は、大部分の野生動物では食物の入手が容易で哺育に最も条件の恵まれる季節に分娩を集中させるためとされている。繁殖の季節性は亜熱帯や熱帯では畜種や品種により変化が生ずる
哺育期から育成期にかけての栄養条件の適否性成熟の到来、あるいはその後の性周期の回帰状況発情徴候の強弱などと密接な関係にあり、さらには受胎性妊娠の維持にも影響を与える。性成熟の到来には幼令期およびその後の栄養条件の良否が影響を及ぼすが、家畜個体の遺伝的素質も重要な要素である
・一般に雌畜の性成熟到来は、排卵を伴う初めての明瞭な発情徴候が発現し、その後にほぼ規則的な発情周期の回帰が確立されたときをいう。一方、雄畜では精巣の急速な発育精細管における精子の出現をもって春機発動とし、射精機能の確立(受精可能な精子の射出)をもって性成熟とみなされる。
・家畜は性成熟に達してもその時期にはまだ体格が成畜近くにまでは達していないため、通常すぐに繁殖には供しない

[各種家畜の繁殖特性]
野生のウシ属は季節繁殖動物であるが、家畜化されたウシは季節繁殖性を失っており周年繁殖が可能である。雌の性周期は約21日で、妊娠期間は約280日である。またウシの産子数は通常1頭である。ウシでは雄は8〜12か月で、雌は7〜15か月で性成熟に達するが、実際の繁殖供用開始は雄で1.5〜3.0年、雌で1.5〜2.0年となっている,
ウマは季節繁殖性を失っておらず春から初夏(4月〜6月)にかけて繁殖行動をとる。これ以外の季節では雌馬の良好な発情が見られず、また分娩後の交配適期期間も比較的短いため種付けには多くの注意が払われる。雌の性周期は通常22〜23日で、妊娠期間は約330日である。産子数は通常1頭である。ウマでは雄は25〜28か月で、雌は15〜18か月で性成熟に達するが、繁殖供用開始は雄で3.0〜4.0年、雌で約3.0年となっている。競走馬では現役終了後の供用となるためさらに遅れる
ブタは周年繁殖性を持ち、年間を通して繁殖行動をとる。妊娠期間は114目前後で、産子数は改良種で通常10頭前後である。養豚産業では豚の高い繁殖能力を利用し、繁殖豚1頭当たり年間2.0〜2.3回の分挽、20〜22頭の離乳子豚生産が技術の基準となっている。
ヒツジは温帯以北では季節繁殖性を失っておらず秋から冬にかけて繁殖行動をとり、3〜4月に分娩する。生まれた子畜はその年の初冬には性成熟に達する。雌の妊娠期間は約150日で、産子数は1〜2頭であり、双子は珍しくない
ヤギは季節繁殖性秋から冬にかけて繁殖行動をとり、3〜4月に分娩する。羊と同様、生まれた子畜はその年の初冬には性成熟に達する。雌の妊娠期間は約150日で、産子数は1〜2頭であり、双子は珍しくない




  


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