農学全般

栽培学汎論


糸状菌・細菌・ウィルス

ウィルスの性質

・ウィルスの最大の特徴は生きた細胞内でしか増殖できない点にある。つまりウィルスは自己の構成成分を合成する酵素を全くもたないため、増殖は他の生物の酵素系を利用して行う。このためウィルスに有効な薬剤は宿主の代謝をも阻害することになり、宿主に薬害を与えずウィルスだけに有効な薬剤を作るのは困難である。現在使用されている抗ウィルス剤の多くはタンパク質合成を阻害するもので、高濃度では宿主に薬害を生じる。抗ウィルス剤には他にウィルス粒子に直接作用する浸透性のものも開発されている
・ウィルス粒子は核酸RNA:リボ核酸タンパク)とそれを囲むタンパク質の殻から構成される。薬剤に対して耐性のあるウィルスは体内への透過性が少なく、その原因はタンパク質の殻にあるとされている(この現象はウィルス特有のものではなく、細菌や糸状菌でもみられる)。
・ウィルスは一般的に虫媒伝染するが、殺虫剤で媒介昆虫を防除しようとしても虫が死ぬまでにウィルスを媒介してしまうことが多く完全な防除が難しい。これがウィルス防除が困難な二次的理由といわれている。ただし、虫体内において潜伏期間をもつようなウィルス(ウンカ類が伝染するウィルス病など)は殺虫剤による防除が可能である。
・ウィルスの病徴はモザイク、黄化、壊死、萎縮、奇形などがある。
一度発病した植物体を高温あるいは低温に数日間置くと新しい部位に出る病徴が軽減されやがて消える。これはウィルスの増殖が抑えられたからであり、この現象をマスキングという。
・植物ウィルスは一般に結晶化しやすく、ウィルスの中で最初に結晶として取り出されたものはタバコモザイクウィルスである。タバコモザイクウィルスは棒状核子の外側の管状構造をなしているものがタンパク部分で、その中空部をリボ核酸が占めている。ウィルス核子からリボ核酸を除くと感染力を失い、再びリボ核酸を加えると感染力が回復する

植物の病気の原因

・植物の病原はウィルス性病原、生物性病原、非生物性病原に分類される。
1.ウィルス性病原−ウィルス・ウイロイド。
2.生物性病原
1)動物性病原−昆虫、線虫、ダニ、ネズミなど。
2)植物性病原−ファイトプラズマ、細菌、菌類、藻類、寄生植物など。
3.非生物性病原
1)土壌条件−土壌水分および養分の過不足、土壌の物理性、有害物質の蓄積、土壌pHなど。
2)気象条件−日照および温湿度変化、風雨、降霜、凍結、落雷など。
3)農作業−作業傷害、薬害など。
4)産業または生活公害−鉱毒、排気ガス、大気汚染、水質汚濁など。
5)生物代謝産物−有害蓄積物

糸状菌

糸状菌は細胞が糸のように繋がって菌糸をつくるカビの一種で、胞子によって繁殖する。菌糸や胞子は肉眼ではっきりとみることができないが、菌糸が蜜に固く結合してできる菌核は2mmぐらいの大きさになるものもある。
[分類]
・胞子は有機物の表面に付着すると、発芽して菌糸を伸ばす。菌糸は植物体の細胞内に入って養分を吸収するが、その場合の寄主の状態により死物寄生と活物寄生がある。また両方に寄生できるものもある。
・胞子には無性生殖でできるものと有性生殖でできるものがあり、無性生殖でできる胞子を分生胞子という。有性生殖の胞子のでき方は菌の種類によって異なり、この性質と菌糸の隔膜の有無によって糸状菌は大きく5つに分類される。
古生菌類−菌にはっきりした細胞膜がなく、アメーバ状で、そのまま有性または無性の胞子をつくる。
そう菌類−菌にはっきりとした細胞膜があって糸状の菌糸となるが、菌糸には隔膜がない。有性生殖によって卵細胞あるいは接合胞子をつくる。
子のう菌類−菌糸に隔膜があり、有性生殖によって子のうをつくり、その中に子のう胞子を生じる。無性生殖と有性生殖が繰り返される
担子菌類−菌糸に隔膜があり、有性生殖によって担胞子をつくる。
不完全菌類−有性生殖の時代がまだ解明されていない菌を便宜上まとめたもの。
[特徴]
・菌が侵入すると養分を吸収し増殖が行われるが、多くの場合、植物は菌の分泌する物質によって代謝が阻害されて病気が発生する。菌が分泌する物質としては、酵素、毒素、生育調節物質、多糖類、抗生物質などが知られている。
・糸状菌の病徴には局部的・全身的な壊死、枯死、肥大、萎凋、萎縮などがある。壊死病徴には根腐れ、茎基部の枯死、かいよう、葉の斑点病、軟腐などがある。

細菌

細菌は糸状菌と異なり、個々の細胞がばらばらで、1細胞が1菌体として生活している。繁殖は菌体の分裂によって行われる。
[分類]
・細菌はその形態から球菌桿菌らせん菌に区別されるが、植物病原細菌の大部分は桿菌に属する。
・細菌は無鞭毛細菌極毛細菌周毛細菌に大分される。植物病原細菌として知られているものは約260種あり、その9割以上は鞭毛をもつ運動性細菌で、さらにその7割以上極毛細菌である。
・グラム染色法による分類とは染色によって紫色に染まるものをグラム陽性菌赤色に染まるものをグラム陰性菌とするものであり、細菌の分類および同定に活用される。これはグラム陽性菌がムコ複合体やタイコイン酸を成分として含む性質を利用している。細菌のほとんどはグラム陰性菌であり、グラム陽性菌は大体Corynebacteriumに属すると考えてよい。
[特徴]
・細菌による病徴は以下のように分けられる。
@始め柔組織が侵され、後に付近の維管束が侵されて、斑点・葉枯れなどの症状を示し、病徴が進むと腐敗するもの(イネ白葉枯病、 野菜の軟腐病、ミカンかいよう病など)。
A導管部が侵され、導管がつまって水分の上昇が妨げられるために萎れたり、青枯れ症状を起こしたりするもの(ナス青枯れ病、ジャガイモ輪腐れ病など)。
B細菌の分泌する物質の刺激によって組織が肥大し、こぶをつくるもの(果樹の根頭がんしゅ病など)。
・細菌の病徴には斑点、条斑、腐敗、萎凋、枝枯れ、葉枯れ、奇形などがある。
・植物病原細菌の栄養のとり方は従属栄養型で、寄生した植物体からエネルギーを得ている。
・細菌は寄生植物体の一部、土壌、昆虫体内などで潜伏越冬し、翌春の第一次伝染源となる。稀に芽胞を形成して越冬するものがある。
・植物に対する細菌の侵入は気孔、水孔、密腺のような開口部から侵入する気孔感染が主流で、他にも植物体の表面に穴を開けて侵入する角皮感染がある。
[防除]
・抗生物質による防除は特定の病原菌の特定の系統にしか効果をもたず突然変異などにより耐性菌が生じる可能性もある。




  


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